僕が目指す、お店の形

はじめまして。代表の山本将人(やまもとまさと)です。

僕は18歳から15年以上、夜の仕事一筋で生きてきた”夜大好き人間”です。

僕が目指すのは、高級な店でも派手な店でもありません。

「ただいま」と言えば、「おかえり」と返ってくるような、心が温かくなる場所。

そんなお店を作りたいと思っています。

でも、最初からそう考えていたわけではありません。

実は、そう思うようになったのは、父とのある出来事がきっかけです。

あれは、地元・静岡に帰省したときのことでした。

父の何気ない一言が、すべての始まりだった。

「おい、スナック行くぞ。」

きっかけは父の何気ない一言だった。

お店を始めてから3年ほど経ち、地元の静岡に帰省したある日、

父に行きつけのスナックにむりやり誘われた。

「おい、スナック行くぞ。」

「いいよ、一人で行ってきなよ。」

「いや、ママがおまえの顔見たいって言ってるから。」

「俺は別に見たくない。」

「まぁまぁ、とりあえず一回行こう。」

「家でゆっくりしたいのに…。」

正直、めんどくさかった。

スナックなんておじさんが通うものだと思っていたし、何が楽しいのかもわからなかった。

しぶしぶ支度を済ませ、半ば強引に連れ出された。

昭和の香りが残る、父の行きつけの店。

店に着いてドアを開ける。

「いらっしゃいませー!」

嫌なくらい元気なあいさつ。

ありがちな営業スマイルに、適当に合わせ中に入る。

見渡すと、狭い店内、昭和の香りが残るインテリア、年季の入ったカラオケセット。

古い歌謡曲が流れ、壁に貼られた常連たちの写真。

思った通り、若者が楽しめるような場所ではない。

「やっぱり来るんじゃなかった…」

気乗りしないまま座り、適当にグラスを傾ける。

父の話を適当に聞き流しながら、ちらっと時計を見る。

まだ10分しか経ってない。

「まだ10分?長すぎる…。」

ため息をつき、目の前の景色をぼんやりと眺める。

でも、その瞬間

僕は、これまで見たことのない光景を目の当たりにした。

衝撃の光景

それは僕にとって衝撃の光景だった。

ーー父が、笑っていた。

そこには、カラオケを歌い、ママや他のお客さんと冗談を言い合い、心から楽しそうに笑っている父がいた。

となりの常連とグラスを合わせ、

「次は誰が歌う?」

と、まるで少年のように無邪気な笑顔で楽しんでいる。

ただそれだけのことなのに、僕は言葉を失ってしまった。

なぜなら、あんなに楽しそうな父の顔を、僕は見たことがなかったから。

実は僕は、心から笑っている父を、一度も見たことがなかった。

強く生きてきた父の背中

父は、僕が3歳のときに母を病気で亡くし、ずっと独り身だ。

母は妊娠中毒症という病気で亡くなった。

母が亡くなってから父は、一度も弱音を吐いたり、涙を見せたことがない。

いつも気丈に振る舞い、休みの日に行きたい所があれば、時間が許す限りどこにでも連れて行ってくれた。

「お母さんのことを今も愛している。」

そう言って、再婚もせず、黙々と働きながら男手ひとつで僕を育ててくれた。

けど、そんな父の背中はいつもどこか寂しそうだった。

特に母を亡くした時の父は、心に大きな穴が空いたようだった。

子供ながらにもそれは覚えている。

家で過ごしていてもゲームをするばかりで、テレビをつけても画面を見るわけでもなく、たまに外に出てもパチンコで時間を潰すだけ。

当時の僕にはわからなかったが、今思えば母を亡くした悲しみに打ちひしがれていたんだと思う。

実は母のお腹には、もうひとつの命も宿っていた。

僕には、弟か妹が生まれるはずだった。

でも、その命も、母とともに消えた。

母がいなくなったあの日、きっと父は、何度も自分を責めたんだと思う。

「どうして自分だけが残ったのか。」

「どうして2人とも連れていかれたのか。」

「まだできることがあったんじゃないか。」

深い悲しみに暮れ、やり場のない怒りを抱えて、それを誰にも見せず過ごしていたんだと思う。

本当の意味での”居場所”を知った日。

そんな父が今、まるで昔の友人と集まるように、楽しそうに語り合い、

ーー笑っている。

それは、ただの笑顔じゃなかった。

安らぎに満ちた、心からの笑顔。

その姿を見たとき、僕は胸が熱くなった。

「あぁ、ここが父の居場所なんだ。」

このお店が、父にとっての”支え”になっている。

そう感じた瞬間だった。

その時、気づいた。

「人の心を救うのは、こういう場所なんだ。」

お店は、ただお酒を飲むだけの場所ではない。

日々の疲れや孤独を忘れさせ、ほんのひととき、素の自分に戻れる場所。

誰かがそばにいて、話を聞いてくれる。

歌って、笑って、「また頑張ろう」と思える場所。

それを見て、僕は強く思った。

「僕も、そんなお店を作りたい。」

心に決めた瞬間だった。

大きかった父の存在

お店が今の形になった理由。

それは、父の存在でした。

あのとき父に無理やりスナックへ連れて行かれなければ、今のお店にはきっとなっていません。

それほど僕にとってこの出来事は衝撃的なものでした。

僕にとって父の存在は本当に大きく、大好きで、大切な存在です。

この文章を書きながら当時のことを思い出し、大好きな父が最も愛する人を失った時のつらさ、悲しみ、苦しみ

それを想像すると、気づけば涙がこぼれ、なかなか筆が進みませんでした。

男手ひとつで育ててくれた父には、感謝しかありません。

僕の目指すお店の形

僕のお店は、高級でも派手でもありません。

でも、「ただいま」と言えば、「おかえり」と返ってくるような、そんな温かい場所にしたい。

それが僕の目指す理想のお店の姿です。

“お客様が喜ぶことをする” ”喜ばれないことはしない”

あの時の父のように、一人でも多くの人が心から笑顔になれる場所にしたい。

一人一人のお客様にとって今日ここで過ごす時間が、心のどこかに残るひとときになれば嬉しいです。

代表 山本将人